多くの人々にとって、ゆっくりと走り去る王室のステートリムジンを見ることは、女王陛下の姿を目にするほぼ唯一の機会かもしれません。こういった理由から、女王陛下のステートリムジンは「パノラミックグラスハウス」というコンセプトで設計され、車外からの視認性を高めています。ベース車両となったベントレー アルナージよりも全長が80cmも長く、さらに幅も広く全高も高く設計されています。そのため女王陛下は身をかがめることなく、文字通り歩いて乗り降りできるのです。また、リアドアのヒンジをドア後部に設け、開口角度90°の観音開きに設計したことで、女王陛下の乗降性を一層高めています。

ルーフには紋章やペナントを取り付けるためのマウントを設け、ラジエーターグリルの内側とフロントバンパーには、交通渋滞の中でも最優先で移動できるようにするためのブルーの点滅式ランプを設置するなど、特注の機能が数多く装備されています。

女王陛下が長時間、車内で快適に過ごせることは極めて重要です。ゆえにモノコック構造が採用され、トランスミッショントンネルをキャビンの下に通すことで、よりフラットなフロアを実現しました。

リアシートのポジションは、女王陛下とまったく同じ身長のモデルを使って決定し、ハンドバッグの収納スペースは、女王陛下が愛用するハンドバッグの寸法に合わせて設計されました。

リアシートの内装に使用されているラムウールの布地は、英国のテキスタイルメーカーのヒールドブラザーズ社が製作。その他の内装はすべてベントレーが製造し、ライトグレーのコノリーレザーで仕上げられています。カーペットは、リア用にペールブルー、フロント用にダークブルーを採用しています。

国家元首である女王陛下は、どんなに可能性が低くても、外部からの攻撃から常に保護されなければなりません。そのため、この車両のボディやガラスはすべて特別に強化されたものが採用されています。キャビンは耐爆風仕様で、ガスを使用した攻撃にも耐えられる気密性も保持しています。タイヤはアラミド繊維で補強され、非常時でもスピードが出せる構造となっています。

マリナーはこれまでにも、乗員を保護するための装甲を施した車両を何度も製造してきました。